東京地方裁判所 昭和54年(ワ)5766号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
原告は被告に対し干菓子の取引による売掛残代金の支払を求めたが、被告は、
「1 被告は原告と昭和五〇年四月一五日頃より取引を始め、原告より干菓子を仕入れこれをスーパー等に卸売しているが、被告は取引開始以来、除々に卸売先を拡げ、昭和五四年二月頃には約三〇〇軒の多きに及び、一か月の売上も平均して約六〇〇万円余りの高額に達していた。
2 ところが原告は昭和五四年二月末頃より被告の卸売先を被告の許可なく勝手に廻り、これら卸売先に対し原告の製品は今後は被告より買わないで、原告の指定する問屋より仕入れるよう要請して歩いた。
そして一方同年三月一四日には、原告は被告に対し一方的に取引を中止する旨を通告した。
3 原告が被告との取引を中止したのは、被告の販売商品の一部が原告の販売商品と類似するという理由のようであるが、仮に類似しているとしても別に原告の商品の販売が阻害された訳ではなく、原告が一方的に取引を中止し商品の出荷を停止したことは、明らかに原・被告間の継続的取引について債務不履行であり、原告は被告が被つた損害を賠償すべき責任がある。」として、この損害賠償債権と原告の本件売掛金債権とを対当額で相殺する旨主張した。
【判旨】
一請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
二それで、相殺の抗弁の当否について判断を進める。
1 <証拠>によると、次の事実を認めることができる。
(1)原告は被告と昭和五〇年四月頃より取引を始め、被告は原告が販売する袋詰海苔巻きあられ「若潮」等を仕入れ、これをスーパー等に卸売していた。
(2)被告は取引開始以来、卸売先を拡げ、昭和五三年二月頃には約三〇〇軒に及び、一か月の売上は平均して約六〇〇万円(年末は約一、〇〇〇万円)の高額に達していた。
(3)ところで、原告商品は年末には前述のとおり売上げが伸びるが、年末の需要期に品不足が生じ、被告の需要に応じきれず、また、被告の卸売先にはスーパーが多く、これらの売先はときどき特売を行い、その際には普通の売値より安い値段を指示してくるが、原告はメーカーでなく、他より仕入れて販売しているので、値巾が少なく値引の要求になかなか応じなかつたので、被告は原告商品「若潮」と類似する他の安い商品を扱う必要が生じ、昭和五三年一一月頃から原告に無断で類似の安い袋詰海苔巻きあられ「大海苔」を他から仕入れ販売することになつた(「大海苔」の販売量は平均して月一〇〇万円前後)。
「若潮」と「大海苔」は、共に袋詰のあられであるが、見た目には、その包装、量ともそつくりといつてよい類似の商品である。「若潮」の被告の売価は二一〇円、「大海苔」の普段の売値は二一〇円、特売は一五〇円から一八〇円であつた。
(4)原告は昭和五四年二月二四日になつて被告の横浜支店で原告商品と類似する商品「大海苔」を発見し、同月二六日原告は被告に対し「大海苔」の販売を中止するよう要求した。
(5)しかし、被告は調査して返事をするというだけでそのまま「大海苔」の販売を継続し、誠意ある態度を示さなかつたので、原告は被告に対し同年三月一四日販売の中止を申入れ、商品の出荷を停止した。
(6)被告は原告から出荷を停止されたので、やむをえず同三月以降他から同種商品を仕入れ販売を行なつている。
以上の事実が認められ<る。>
2 右認定事実によると、原告と被告との間には昭和五〇年四月頃から取引が継続し、その取引高は昭和五三年二月以降一か月の売上げは平均して約六〇〇万円に達していたことが認められるが、継続的取引契約が締結されていたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が年末の需要期の品不足と卸売先のスーパーストアの特売用の値引指示に応じるために他からの安い同種商品を仕入れる必要のあつたことは認められるが、被告が原告商品と他の安い類似商品とを年中同時に扱うのをそのまま容認することは、原告商品の売行きに悪い影響を与えることは容易に推認できることであり、そして原告がその商品の売上の先細りについて危惧を抱くのはもつともなことであるといえる(被告は、類似商品の販売は原告商品の売上げに全く影響がないばかりか、かえつて原告商品の品不足を補充しその売上げを高めるためには必要なことであると主張するが、このことを認めるような証拠は存在しない。)それで、原告が昭和五四年二月二六日に被告に対し類似商品の販売の中止を要求し、被告がこれに対し誠意のある措置をとらなかつたので、原告は翌月一四日に販売の中止を申入れ出荷を停止したものであり、この原告のとつた行為は、売主の一方的な取引の中止ではなく、また売主側の選択として是認できることであるので、この原告の行為をもつて債務不履行に当るということはできない(なお、被告は、海苔巻きあられの包装はどれも同じであつて、「大海苔」の包装を原告商品「若潮」と殊更に類似させたものでないこと、「大海苔」を扱つても原告商品「若潮」の月間仕入高を確保することを申入れていたので、原告の販売中止は不当であると主張しているようでもあるが、仮に殊更に包装を類似させたものでないとしても、又月間の仕入高の確保を申入れていたとしても(この申入の事実は、昭和五四年三月一四日までの間には認められない。)、原告が被告との取引の先行きを憂慮して取引を中止したのは、前述のとおり売主側の選択として是認できることであつて義務違反ではないといえる。)。
(山田二郎)